2012年2月29日水曜日

バスカットの問題

ピッツバーグの公共バスは、大赤字のため現在のバス走行の35%におよぶ大幅カットの危機に立っている。乗る人が少なくて赤字、というよりは、たぶん経営のまずさ・失敗から招いた大赤字ではないかと思うのだが詳しい背景はちゃんと勉強してない。

運賃値上げ(2ドル25セントから2ドル50セントへ。つい去年25セントの値上げがあったばかりだが。)もいわれているが、完全削除になる路線や便数の大幅削減の問題と比べるとたいした問題ではない。

もしこのまま路線カット・便数減少が強行されると、一番困るのは自家用車という手段のないバス頼みの人たちである。通勤や通院の手段を失ってしまう人も少なくないだろう。そして、自家用車という手段がある人がバスからみんな自家用車に乗り換えると、朝夕のラッシュはさらに悪化すること間違いなし。

障害者や高齢者の人たちが使っているACCESSというマイクロバスを使った送迎システムも今回バスと同様の危機にたっている。このシステムは予約制の乗り合いタクシーみたいな感じで、たしか前日までに予約をしておくと、通院や買い物などの送迎をしてくれるのだ。

私の勤めるオフィスはダウンタウンにあるため、患者さんは自家用車がなくても、バスを使うことでかなり遠くからでも受診が可能だった。今後は バスカット → 受診できない → 診断や治療の遅れ  という状況が怖い。

今日はバスカットに関する公聴会がかなり大規模に開かれた模様。私ができるのはとりあえず署名活動を探すことか。

2012年2月28日火曜日

ピルのリコール、ふたたび

24日付けでGlenmark Generics という会社の作っている経口避妊薬(以下ピルとする)のリコールが発表されたという記事を読んだ。対象になっているのは

Norgestimate and Ethinyl Estradiol Tablets USP, 0.18 mg/0.035 mg, 0.215 mg/0.035 mg, 0.25 mg/0.035 mg (これのブランド版は Ortho Tri-Cyclen) のうち、昨年9月から12月までの間に販売された7つのロット番号の商品。

本来このタイプのピルは、1週目から3週目まで35mcgのエストロジェンが入っていて(その間1週ごとにプロジェスティンの量は変化する)、4週目がホルモンなしの偽薬というようにお行儀よくならんでないといけないのだが、この順番が不正確なものが出回ってしまっているらしい。

先日の Lo Ovral のリコールに続く、ピルのリコールである。

処方箋は「Ortho Tri-Cyclen」と書いてあっても、「要ブランド」と特別に記入されていない場合は、薬剤師の判断でジェネリック薬に置き換えられている。だから、どの患者さんが今回問題になっているピルを飲んでいるか私自身が把握する手段はない。リコールの必要性を指摘できるのは、患者さん自身もしくは気の効いた薬剤師くらいのものだ。

ただ経験的には、おなじ Ortho Tri-Cyclen のジェネリック薬であっても、他社の製品で例えばTri-Sprintec、Trinessa, Tri-Previfem などという独自の名前を持った製品を使っている患者さんのほうがたぶん大多数。

ピルを飲んでいるのに妊娠、という状況が起きないことを願うのみだ。

2012年2月27日月曜日

ヴァーチャル・クリニック その2

随分前に、避妊カウンセリングを学ぶためのヴァーチャル・クリニックの教材を紹介した。http://koimokko.blogspot.com/2010/06/blog-post_21.html

ごく最近になって、過活動膀胱 (over active bladder) と線維筋症 (fibromyalgia) をテーマにした同様の教材があるのに気づき、やってみた。
http://www.arhp.org/vclinic/

避妊カウンセリングと違って、これら2つのテーマは自分のオフィスでは積極的にかかわる分野でないので、自分のなかで苦手感覚がある。ヴァーチャル・クリニックでは半ば無理やり患者さんを「診る」(もちろんフィジカルイグザムはできないけど、どういう思考過程を踏んでいくかという疑似体験ができる)ことになるので、従来のただ読むだけの教材より面白い。

ただ、すでにこれらの分野に長けている人が取り組んだら、簡単すぎるかもしれない。

2012年2月26日日曜日

タンポン事件

「月経が来ないんです。それと、おりものがすごく臭うんです。」という訴えで訪れた患者さん。

月経が遅れたりおりものが臭ったりする原因にはいろいろあるが、タンポンの取り出し忘れ という単純だが侮れない原因もたま~にある。

先日出会った患者さんの場合、上記のような訴えは何もなく、定期健診の際にたまたまタンポンの取り出し忘れが見つかった。月経終了からまだ1週間ほどの時期だったので、「よかったね、今日たまたま健診で。」なんて言いながら取り出したのだが、驚くことにその奥にもう1つタンポンが入っていた!

2個もタンポンが入っていて、違和感はなかったのかと不思議に思う方がいるだろうけれど、膣というのは結構広いもので(個人差も大きいが)、タンポンが1-2個入った状態でも、さらにそのままセックスをしても、気がつかない人は気がつかないものなのである。

ちなみに、取り出したタンポンはすぐさま厳重に二重に袋に入れて捨てたほうがよい。通常のハザードのごみにポイっと入れてしまうと、診察室に臭いが残ってしまうから。


2012年2月25日土曜日

安全性とQOL

地元NP協会主催の勉強会があった。朝7時半から1時間の講義×5本。参加者は40人ほどでこじんまりしていたが、内容はとてもよかった。

Dysfunctional uterine bleeding (機能不全性子宮出血)の講義で、
1. 安全を確保すること (ガンや血液疾患などといった何か大きな原因が背後にないか見極めること)
2. 患者さんの 生活の質 (quality of life) を確保すること
の2つのポイントをおさえてアプローチすることが大事だ、と強調されていた。

これは、ごくごく当たり前のことなのだが、残念ながら健康保険がなかったり、あっても非常に限られた内容しか面倒を見てくれない保険の場合、血算やTSH(甲状腺刺激ホルモン)などの血液検査や経膣・経腹超音波、子宮内膜のバイオプシーなどの検査を実施できず、上記の1.が十分できないことがある。(もちろんhistory & physical exam は最大限頑張るが。)

そういった場合、異常出血の原因さがしが不十分のまま、とりあえず打つ手は打たねばということで、いきなり2.のマネジメントに入らざるをえない。連邦政府や州政府由来の各種プログラムは、ホルモン系の避妊薬に関しては助成してくれているところが多いので、それをしばしば出血対策に使う。(例:ピル、Nuvaring、Depo Provera という注射薬。)政府のプログラムが使えない患者さんの場合、ピルを自費で(1ヶ月に13-20ドルくらい)負担してもらうこともある。もちろん禁忌がないか確認したうえで。あとはNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)を使う策とか。

このように無保険・不十分な保険の患者さんを目の前にしている私に助言があったらお願いします、と講師に質問した。

講師も困って会場の参加者に質問をふったが、妙案が湧き出てくることはなかった。だけど、「先のような状況下において、とりあえず使える手を使い始めて経過を見ることは悪いことでない。大きな問題を見逃すのでは、という恐れは分かるが、大きな問題が隠れている場合はそのような『お試し策』を講じても改善が見られないであろう。」と講師が言ってくれたことがせめてもの幸いである。でも、言ってくれたところで、診断見逃し、診断遅れのリスクが消えたわけでもなんでもない。

健康保険制度改革のバトルのすんだ暁に、こういう話が「過去のこと」として語れるようであってほしいが、今のところは悲しい現実である。

あとで参加者の1人から、「あなた、この理不尽な状況をなんとかするには、グラントを書いて、そのお金で超音波の機械を買ったらいいのよ!」とも言われた。彼女はERで働くNPなので、身近に超音波の機械があるようだった。(ちなみにアメリカの産婦人科の診察と超音波検査は分業のところが多く、多くの超音波検査は放射線科で行われている。)う~ん、そういうアイディアもありか。


2012年2月23日木曜日

1年半しか or 1年半も

約1年半前に15歳で子宮内避妊具 Mirena を初めたAさん、現在16歳。今通っている婦人科でMirena 抜去を希望されているとのことでカルテのコピーの依頼があり、スタッフが対応していた。彼女は「まったく、せっかく Mirena をはじめたって、10代の子達はすぐ気が変わって結局抜くことになっちゃうから、もったいない。」と言った。(Mirena は5年間使える避妊具。)

しかし、見方を変えると、彼女はこの1年半の間、頼りになるMirena のおかげで妊娠しないですんだ。1年半も使用を継続できた。

ピル、パッチ、Nuvaring、などの方法はMirena のように処置を必要としないので始めるのは簡便なのだけど、その分継続率はよろしくなく、1年後の継続率はせいぜい5割前後なのである。そもそも処方箋をもらっても結局それを薬局に持っていくに至らない人もいるし、また「使っているつもり」であっても、飲み忘れたり正しく使えていなかったりして妊娠に至ることもある。

その点、Mirena のような子宮内避妊具やImplanonという 皮下埋め込みタイプの方法は継続率が1年後で8割以上を誇る。幸いなことにこういった方法は「使い忘れ」という事態が起きない。ただ不幸(?)なことに自分自身では取り外せない。(普通は。)ちなみに、こういう長期間使える方法をまとめてラーク (LARC=long-acting reversible contraceptives) と呼んだりする。

今回Aさんがどういう理由でMirena を止めたいと思っているかを私は知る由はないが、始めたときはそれが彼女が「ベスト」と選んだ方法であった。中止の理由はなんであれ1年半継続できた、というプラスの面も忘れないでいたい。この間Aさんは高校生活をふつーに続けられていたと思われる。もし仮に不確実な避妊によって妊娠していたら、妊娠を継続するにしてもしないにしても、決断や生活の変化に迫られたろう。

Aさんの Mirena は医療扶助タイプの健康保険でまかなわれていた。 Mirena など LARC の初期費用はピル等と比べると大分高いのだが、彼女が仮に妊娠して医療扶助が彼女の妊婦健診や出産費をカバーしないといけないことと比べたら、 Mirena の価格なんて比較にならんだろう。

もっといえば、Aさんが高校を続けて、願わくば無事に卒業できたら、将来的に医療扶助や生活保護におんぶに抱っこではなく、自分で稼いで生活を支えられる可能性が高まる。つまり、社会保障の恩恵を受ける人というよりは、社会保障に貢献していく社会人になっていける可能性が高まる。

そんなわけで、「Aさんは1年半Mirena を続けられてよかったなー」、と勝手に私はおもうのだ。

2012年2月22日水曜日

昼の勉強会~葉酸編~

月に一回ほどのペースで Lunch & Learn (要は昼食を食べながらの勉強会)をスタッフ向けにやっている。今回は葉酸摂取について取り上げた。

葉酸はビタミンBの1種で、細胞分裂のために重要な役割をはたす。だからわれらみんな生きている限り葉酸は大事。

とりわけお腹の中の赤ちゃんはひたすら細胞分裂を繰り返して大きくなっているわけで、ひときわ葉酸を必要としている。とりわけ妊娠のごく初期の時期にそのニーズがとくに著しく、もしママが十分葉酸をとっていないと、神経管閉鎖障害(二分脊椎や無脳症)を招きかねない。ママが妊娠に気づくころにはもう遅い可能性がある。

そんなわけで妊娠しうる年代の女性は毎日葉酸を400~800mcg摂取することが推奨されている。葉っぱものの野菜、イチゴやオレンジなどにも葉酸は含まれているが、そういった自然体(?)の葉酸(正確には葉酸塩かな)folate は含有量がまちまちだし、体が実際吸収できる率もあんまりよろしくない。

なので、意図的に人工的な(?)葉酸 folic acid を400-800mcgをサプリメント(例えばマルチビタミン)もしくは葉酸を添加した食品を食べること(たとえば葉酸を添加してあるシリアル)で摂取することが勧められている。

アメリカの全妊娠の半分は意図しない妊娠 (unintended pregnancy) である。ピルなどの避妊薬を使っていてもなお、飲み忘れなどで妊娠することはままある。そして、本人が妊娠に気がつくころには、葉酸が胎児にとって最も必要な時期を過ぎてしまっている。そんなわけで、妊娠する気まんまんの人だけでなく、妊娠可能年齢の女性はみんな葉酸を意識的にとるに限る。

以上の情報をぜーんぶ患者さんに逐一話す必要はないが、スタッフにはベースの知識として知っておいてほしいとおもい、今回これをテーマにした次第。ベテランスタッフは多分知っているだろうが、若手スタッフの知識はあやしいかも、、、と。

講義形式ではつまんないので、Q&A型にして、みんなで話し合ってもらいながら進めた。で、開けてびっくり。参加者の持っていたいろいろな誤解・思い込みが明らかになった。ベテランスタッフはさすがに葉酸が妊婦にとって大事、ということは押さえていたが。自分があえて説明するまでもないと思っているようなことでも、わがオフィスのスタッフにとっては必ずしもそうではない、ということを痛感させられた。

妊娠反応検査だけのために訪れる患者さんたちは、スタッフ(メディカルアシスタント)のカウンセリングだけ受けて帰る場面が多い。スタッフには、妊娠反応が陽性の女性にはもちろんのこと、たとえ陰性であっても、その機会を捉えて葉酸摂取をしっかり推奨していってほしい。(当然推奨していると思い込んでいたが、そうでなかったということが今日の勉強会で明らかになっちゃった。)

2012年2月20日月曜日

350単語の抄録

10月に開かれるあるカンファレンスにむけて抄録を書いている。350単語という制限がある。微妙なボリューム。口頭発表目指してがんばろう。

初めて見かけたエモリー卒業生

ペンシルバニアに引っ越して以来初めて、エモリーの卒業生に出会った。

私は靴屋で靴を買い、それを持ち帰るためにポシェットから袋を取り出した。その瞬間、「それどこで手に入れたんだい?」と男性が声をかけてきた。その袋というのはエモリーの医学系書店でもらった不織布(?)製の袋で、エモリーのロゴが入っている。(かなり丈夫な品なのでずっと活躍している。)

「キャンパスでもらったんだよ。」と私が答えると、彼は「僕もそこで勉強してたんだよ。君、何年卒業?」と言う。

「2008年」と答えると、彼は「そうかい。おめでとう。」と言って連れの女性とさわやかに立ち去っていった。

あまりにあっという間のできごとだった。「そういうあなたはいつごろエモリーにいたんですか。」とか「ご専門はなんですか。」とか、「エモリーのボランティア月間にちなんで、私はピッツバーグで桜を植えるボランティアをしたんですよ。あなたも次回はご一緒にいかがですか。」とかいろいろ聞く・話すことがあったなー、と思ったが後の祭り。

このあたりでエモリーの卒業生を見かけること自体めったにないことだと思うが、ポシェットから袋を取り出したその瞬間(2秒以内くらい)にエモリーのロゴに気づいた彼の視点のするどさにただ驚くばかりである。

次回どこかでエモリーの卒業生と出会ったら、せめて2-3分はエモリー・スピリットを分かち合いたいものだ。

2012年2月16日木曜日

避妊薬の費用負担をめぐるバトル

宗教関連組織の雇用者は避妊薬の費用を負担しなくてよろしいが、健康保険は女性が避妊薬を自己負担額なしで使えるようにしなければならない――と、先週の金曜日オバマ大統領がのべた。避妊薬の負担に反対している組織(例えばカトリック系の病院や学校など)に配慮しつつ、すべての女性が避妊薬の使用に際して自己負担なしですむ仕組みを確保したい、というポリシーがでている。

でも、カトリックの団体などのなかには、この方針に対してすらも、「宗教の自由を侵すものだ」、と反対している人たちも根強くいる。

宗教系の組織(例えばカトリック系の病院)に勤めているすべての人がその宗教の信仰者ではないし、かりに信仰者であっても、いろいろな理由で避妊薬を必要とする人は少なくない。(避妊のためだけでなく、月経前症候群(PMS)や月経過多などの治療として避妊薬が使われることも多い。)

雇用者の一存で避妊薬はすべて自己負担(あるいは負担割合が変わる)なんてナンセンスと私は思うわけだが、実際今はそれがまかり通ってしまっている。どの避妊薬が自分の体に適切か、ではなく「どれが一番安いか」という基準で避妊薬を選ばざるを得ない患者さん、転職して健康保険が変わったら避妊薬の自己負担額が跳ね上がってしまったため避妊薬を使うことそのものをあきらめた患者さん、などなど枚挙にいとまがない。

オバマ大統領の方針とそれに対する受け止め方について書かれた記事:
現場の声を伝えるため、学会などの専門家集団が奮闘している。メールで回ってきた要請にこたえて私も意見した。次のリンクはそういった専門家の証言集。

感謝の電話

午後、ボスのボスからメールが入った。「今日ウチの本部に患者さんから感謝の電話が入りました。マンモグラムの再検査を受けたかどうか確認する電話を小芋がしたことを患者さんはたいそう感謝しています。患者さんが本部に電話をしてくるときは苦情に関するものがほとんとで、このようによかったことについて患者さんから直接電話が入ることはあまりないので、私もとてもうれしいです。」と。

電話口で私個人に「ありがとう」と言ってくださるだけでも十分うれしかったのだが、組織の上層部にまで気持ちを伝えようと、時間と手間とをかけてくださった患者さんに感謝。

2012年2月12日日曜日

絶不調

週末こそ晴れてくれないとしんどい。今回は両日ともに雪であった。考え方がネガティブになりがちで、とまとまんの言うひとことひとことも逐一ネガティブに翻訳しがちである。こういうときに限って鼻血が急にでてきて白衣を汚したりして、ついてない。

身に覚えないのに私にむやみやたらに当たり散らされる とまとまんは、実にかわいそうな被害者である。
彼曰く、「小芋、絶不調やな~。」 

おーみーごーとー。その言葉にちょっと笑えた。

絶不調なわりには、おかずは8種でき、これでウィークデーは一切料理しなくてよい(はず)。歌の練習はよくやったが、運動のほうは散歩40分のみ。あ、でも昨日のヨガ教室では1時間半みっちしやったし、前後も歩いたのでよしとしよう。ハーフマラソンまで3ヶ月をきってしまったが、最近ぜんぜん走れてない。雪道でも走っている人はいるので、気合の問題なんだとは思う。

あと年賀状・住所録の整理をした。お年玉切手シートが2枚あたっていた。メールのアドレス帳も情報更新につとめたが、こちらはもはや収拾不能状態。

隣のアパートの友達に借りてきた映画 Mamma Mia! は素直に楽しめた。

先週、先々週に比べるとかなり引きこもり度の高い週末だった。また次週・次々週の週末はいずれも行事or 予定ありなので、たまにはこういう非社交的で絶不調な週末もよしとしておく。

明日からまたみっちりフルスケジュールである。がんばろう。


2012年2月9日木曜日

基本的に健康な学生たち

ピッツバーグ郊外の某大学に出張。11時半すぎから4時までノンストップでむちゃくちゃ忙しかったのだが、以下の理由でいつもよりもさくさくと進んだ。

・たばこ吸っていない人が多い (だから禁煙を勧める必要がない)

・Gardasil (HPVワクチン)3回をすでに済ませていることが多い (ゆえに私が新たに勧める必要がない)

・自分が使ってみたい避妊方法についてすでに自己リサーチし尽くして、はっきりとした希望を持っていることが多い (おかげで患者さんの希望の方法にフォーカスしたカウンセリングがしやすい)

・コンドーム使用頻度100%の人が多い (「実は昨日。。」という事態が少なく、緊急避妊薬の処方がいらないことが多い)

・葉酸ないしマルチビタミンを飲んでいる人がわりと多い。(私が改めて勧める必要がない)

・既病歴・妊娠歴がなにもない人が多い。 (おかげで避妊方法選択のうえで制限が少ない) 

・太ってない、運動している人が多い。

わが組織のオフィスはそこここの田舎の大学町にもあるのだが、そういうオフィスのNPたちはきっと毎日がこんな感じなのかな。(どうりで「人数」が見られるわけだ、と一人勝手に納得したくなるよ。)

ちなみに私の勤めるオフィスでは、上記とほとんど真逆の状況が珍しくない。すなわち既病歴・現病歴・妊娠歴てんこ盛り。いちいち立ち止まらないといけない。ほっとってもインターネットでいろいろ調べる大学生と違って、資料を手渡して受け取ってもそれを理解するのが難しい患者さんも少なからず。

2012年2月8日水曜日

ピルのリコール

経口避妊薬、いわゆるピルにはとてもたくさんの種類があるが、そのうち Lo Ovral という商品名のものがリコールの対象になっている。

通常は21錠のピルと7錠のプラセボの計28錠がお行儀よく並んでひとつのシートに入っているのだが、今回の問題はプラセボが7錠より多かったり少なかったり、またプラセボの入るべき場所が間違っている製品が出回ってしまったこと。

これではまじめに毎日飲んでいても、排卵抑制の効果が十分に得られず、結果として妊娠、という事態も十分考えられる。ホルモン入りのピルとプラセボは色が違うので、慣れた患者さんであれば「あれ、なんで変なところにプラセボが入っているのかな?」と気がつかなくもないが、注意を払っていなかったら、見逃してしまうだろう。

リコールの対象は Lo Ovral のすべてではなく、該当するロット番号の品(薬の有効期限でいうと2013年7月から2014年の3月)のみである。ロット番号が該当していても、そのうち上記の問題を実際に抱えているシートはごく少数であるようだが。。。


かくれた盗っ人、クラミジア

患者さんになにか説明するときに使う言葉あるいは「せりふ」のなかには、NP学生時代の指導者の話しぶりから「門前の小僧」的に学んだものもあるし、自分で試行錯誤するなかで形づいてきたものもある。

今日はCDCのウェブサイトをたまたま見ていて、
下記の表現がとても気にいった。特に気に入ったところを太字にする。

(引用ここから)
Untreated gonorrhea and chlamydia can silently steal a young woman’s chance to have her own children later in life. Each year, untreated STDs cause at least 24,000 women in the U.S. to become infertile.
(引用ここまで。)

淋菌やクラミジア感染症はこっそりと将来の妊娠のチャンスを盗むよ、とは、なんと素敵な(!?)表現だろう。これいただき。明日から使わせていただきます。

同じ内容をわたしの場合、"Chlamydia and gonorrhea infection continues even when you have no symptoms. And you may have trouble getting pregnant later in life." などと言って伝えてきた。けど上記の言い方のほうが、知らぬ間に進行する淋菌やクラミジアの特徴をたったひとつの平易な文で言い切っている。おみごと!

2012年2月3日金曜日

乳がん対策の助成金をめぐる騒動

乳がん撲滅をめざし啓蒙活動から研究費の助成まで幅広く活動している スーザン・G・コーメン財団は、3日前、 Planed Parenthood (以下PP = 米国家族計画連盟 ) への助成を止めると発表した。その理由は、助成団体決定にあたっての選択基準をこのたび改定し、それによると現在なんらかの捜査(investigation) が行われている団体には助成しないことにしたから、というものだった。(昨年秋にカリフォルニア州選出の国会議員が、家族計画連盟の活動にかんし捜査を始めていたようだ。)

しかし、本当のところは「人工妊娠中絶を実施しているPPなんかに助成をするなんてけしからぬ。」という人口妊娠反対派勢力のプレッシャーに起因した政治的な「いじめ」ではないか、と大いに勘ぐられている。

助成中止のニュースがいきわたるにつれ抗議の声が高まるなか、今日になってコーメン財団は先の中止決定を取り消すと発表した。また刑事上の捜査で有罪と確定したような問題がないかぎり、助成金に応募してきた団体を拒否することはしない、と宣言した。助成団体の決定は政治的であってはならない、と。

取り消しの発表を歓迎する人々がいる一方で、がっかりしている中絶反対派の人たちもいることが、次の記事を読むとわかる。(中絶反対派の人たちみんなではないが。)

私の働く組織もコーメン財団からの助成金によって無保険の人にマンモグラムの無料受診券を提供することができている。 PP との違いは人工妊娠中絶は行っていないこと。だからPPのような攻撃対象にはなりにくい。

PPもわが組織も、無保険やマイノリティの人など、従来の医療機関には十分手が届いていない人たちに積極的にアプローチしていっている。乳がんを撲滅すべく活動するコーメン財団も、中絶反対派の人たちも、ともに「命」を大事にするなら、文化的・社会的により不利な立場にいる女性たちのことをわすれないでサポートしてほしいと思う。

中絶反対派の人たちに対して私がしばしば不思議に思うのは、受精卵や胎児に敬意を払うがあまり、今現に生きている(もちろん受精卵や胎児も生きているが)大人の女性に対しての扱いがぞんざいな傾向があることである。

2012年2月1日水曜日

15歳かつ3歳児の母

10代で妊娠している患者さんと出会うことは珍しくない。でも先日15歳でかつ2歳の子どもを育てているAさんとの出会いは私にとって衝撃的だった。

話を聞いたとまとまん曰く、「偉いと思うで。」

まことにそうである。15歳の妊娠というだけで十分私にとって衝撃だが、それだけでなく、Aさんの場合13歳で第1子を産んで、その子を育ててきた、という事実が目の前にある。どうやってそれを成し遂げてきたのか、ソーシャルサポートは、という詳しいところは短い診察時間のなかで十分つかめなかったが、すくなくとも学校の先生はよい相談相手になってくれているようだった。

現在私のオフィスでは妊婦健診を中止しているので、次にわたしがAさんに会えるとしたら、分娩もしくは人工妊娠中絶後のこととなる。別に私のところでなくてもいいのだが、Aさんがほんとに「使える」避妊方法を選べるように避妊カウンセリングをできるかが、サポーターたる我々の大きな責任となろう。