2010年8月31日火曜日

たかがお祭り、されどお祭り

ピッツバーグ市内では、夏の間あちこちの地区で Community Festivalや Community Day などと呼ばれるお祭りが開かれている。http://www.city.pittsburgh.pa.us/parks/community_festivals.htmそのうちのひとつに職場のスタッフと一緒に出かけた。

ポップコーンや綿飴を作って配っているおばちゃんたちの隣に机を置き、そこにうちのオフィスのチラシ各種やいろんな種類のコンドームを並べ、また希望するひとには無料でクラミジアと淋菌感染症の検査を尿で無料で検査します、という設定だ。

綿飴のとなりに陣取っただけあって、たくさんの人がチラシやコンドームを手にしてくれたが、性感染症の検査もぜひ受けてみようという人は3時間で6人どまりであった。

あとでボスに6人だったと報告すると彼女はたいそうがっかりしていた。何十人という人が検査を受けることを期待していたらしい。しかし祭りのついでに性感染検査も、というのには抵抗のある人も少なくないのが現実。

というわけでボスには不評だったが、私個人としてはとても面白い経験をした。その地域はきれいに改装・メンテナンスされているアパートやタウンハウスと、手の入らないまま放置されている建物とが混在している。決して荒廃しているわけではないが、例えば日本人学生や会社員一家が多く住んでいる地区とくらべると雰囲気は結構違う。

お祭りに来ている人は、赤ちゃんから壮年の人までさまざま。平日の昼間にもかかわらず、20-40代くらいの人がとても多いのにびっくりした。地域の祭りのためにわざわざ休みを取った人もいる(想像)一方で、失業などの事情で普段から昼間は家にいるという人もきっと少なくなかったと思う(これも勝手な想像)。

ポップコーンや綿飴を作っていたおばちゃんたちは子どもたちから "Mrs. ○○" というように丁寧に呼ばれていて、とても敬意を表される存在であることが伺われた。10代と思われる女性が2-3人連れ立ってベビーカーを押している姿もみた。 

がん対策、精神保健対策、子どもの栄養支援、幼児教育など、いろいろな分野の団体が私たちと同様に机を並べてチラシやちょっとしたお土産(たとえばマグネットつきの大きなクリップとか)を配っていた。そういう人たちに自分と職場の自己紹介をしながら相手の活動について説明してもらうのも面白かった。

で、いろいろな人としゃべっているとものすごくお腹がすいたけど、ホットドッグやハンバーガーなどを無料で振舞っているコーナーもあったので、お腹も落ち着いた。

お祭り当日に性感染症検査を受けたのは「たったの」6人だっとしても、配ったチラシや私たちがその場に存在していたことがきっかけとなって、潜在患者さんの受診につながると嬉しい。でもそういう間接的な成果というのはなかなか数字で出せないんだよな。

City of Pittsburgh Great Race 申し込む

近くのスポーツクラブに正式に入会して早くも一ヶ月。目標を定めるべく、9月26日に開かれる City of Pittsburgh Great Race に申し込んだ。http://www.rungreatrace.com/

5月に参加した 乳がんサポートのための Race for the Cure のときは5kmだった。今度は5kmと10kmと選べる。せっかくだからと10kmのほうにしてみた。2人で申し込むと割引があるので、友達といっしょに申し込んだ。一人当たり16ドルくらい。Tシャツもらえるし、それ以外にもスポンサー企業のいろんなサンプルやら食べ物やらをもらうことになるので、かなりお得。ははは。

コースは、市の東部からダウンタウンのある三角州に向かって西に走る。5th Avenue や Boulevard of Allies などのかなり太い道をランナーのために通行止めにするらしい。だからかなりの優越感(?)とともに走れるだろう。Boulevard of Allies から下に眺める川や橋はきっときれいだろうな。まずは走り込みをがんばろう。
コース地図http://www.rungreatrace.com/course_map.htm

2010年8月23日月曜日

すべての患者さんにHIV抗体検査を勧める動き

男性同士のセックスやIVドラッグの使用など、いわゆるハイリスク行動をしている(したことのある)人にだけHIV抗体検査をするのではなく、基本的に13歳から64歳までのすべての患者さんに検査をすすめるべし、というCDCの勧告(2006)がある。

その背景には、リスクに基づいた検査だけでは不十分だったという反省と、がんと同様に早い段階で見つければ早く手が打てるということがある。事実、早い時期に見つけて治療した場合は、寿命への影響も非常に小さい。逆にHIV検査がなかなか行われないでいると、AIDSを発症したあとでようやく何かがおかしいといろいろな検査を始めてやっとHIV感染がわかることになり、治療がむずかしくなる。

CDCのこの勧告のなかでは、HIV抗体検査を受けるにあたっての同意書やカウンセリングは必要ない、ということになっているそうな。実は私今この記事で初めて知ったのだが。http://cme.medscape.com/viewarticle/725548

この勧告にもかかわらず、ペンシルバニア州の法律では同意書も検査前後のカウンセリングが必須である。カウンセリングは重要ではあるが、同意書を用意したり患者さんに読んでもらってサインしてもらう作業は、現場ではともすると「やっかいな一手間」ともなりかねない。(少なくともプラス5分かかる。)

Opt-out、つまり基本的に全例に実施し特別な場合のみ行わないという方針を取り入れれば、患者さんにとって「HIV抗体検査を受けるのは誰もがうける普通のこと」と捉えてもらいやすくなるばかりか、スタッフにとってもルーティンのお仕事として協力してもらいやすくなるというメリットもあるように思う。正直に言って、今一緒に働いているスタッフの間では、HIV抗体検査は extra なことという扱い。昼休み直前ともなればスタッフからの無言のプレッシャーを感じながら、笑顔で採血の依頼をしている私。

ドラッグなんてやったことないしー、パートナーとは一対一の性関係で、まったく自分はHIVと無縁よー、と信じて疑わない患者さんにも、「いやちょっと考えてみましょうよ。ほんとうにリスクはまったくないでしょうか? じつは新しくHIV感染がわかった患者さんの中にはあなたのような人も少なくないんです。だからこそHIV抗体検査が広く勧められるようになったんです。」と話を持っていきたい。

こちらのサイトには各州のHIVに関する法律が紹介されている。
http://www.nccc.ucsf.edu/consultation_library/state_hiv_testing_laws/

2010年8月21日土曜日

H家の火事のその後

先月H家の火事のことを書いた。http://koimokko.blogspot.com/2010/07/h.html

燃えた家は現在再建中。先日屋根がついたところで、これから外壁や内装が行われる。

ひさびさに会いに行ったのだが、どこまでも前向きなので驚いた。
「ちょうど夏休み中だったもんで助かった。」
「借家に移るまで、近所の人が交代で部屋を貸してくれて助かったんだ。」
「焼け残った地下にアルバムは置いてあったので、運が良かった。」
「保険が焼けたものを保障してくれるので助かる。」
「物がなくても結構生活ってできるもんなのよ。」などなど。

失ったものや不便なことを数え上げるのではなくて、大変な状況のなかでも恵みを見つけつづけている姿勢に感銘をうけた。

一緒にご飯を食べたり、居間でくつろいだりしたのだが、家や家具こそ違うものの、そこにはいつものH家の空気があって、なんだか同じ家にいるみたいな気持ちになった。

11月の感謝祭のころには元の家に戻れるかも、ということだ。

2010年8月14日土曜日

乳がんについて知らされていない患者さん

南アジアX国出身のAさん(60代)。息子さんと娘さんと孫1人と一緒に初診に見えた。

途中でAさんが「トイレに行きたくなっちゃいました。」とおっしゃるので、もちろんそうしていただいた。

すると娘さんと息子さんが大きな袋を抱えて診察室に入って来られた。「実は母は乳がんだったんです。落ち込むといけないので、本人には良性腫瘍だったと言ってきました。本人には乳がんだと絶対に言わないでください。これがX国で受けてきた治療のすべての経過です。」

腫瘍切除術ののち放射線療法を受け、さらにアロマターゼ阻害剤を飲んでいるAさん本人は本当に良性腫瘍だったと思っているのか?? 

そんなことを私は思ったが、そこは今私が突っ込むべきではないと思ったし、また大きな袋いっぱいのカルテや画像を紐解くのはやはり乳がん専門家がやるべき仕事だと思い、近くの病院を紹介した。

日本でもいわゆるがん告知はタブーとされていた時代があった。これはアジアに広く共通する考えかたなのだろうか。

2010年8月4日水曜日

聴覚障害のある患者さんとのコミュニケーション

聴覚障害のある患者さんが NP に質問があるといって電話してこられた。

リレーサービスと言って、会話を仲介してくれるプログラムがある。
http://www.parelay.net/whatis.asp
患者さんは仲介者にテキストメッセージを送る。仲介は私に電話をかけてきて、患者さんが書いた内容を読み上げてくれる。それを聞いた私は、患者さんに直接話しかけるようにしゃべる。それを仲介者がタイプして患者さんに伝える。それを読んだ患者さんが、私に対してまた言いたいことをテキストする。仲介者が私のためにそれを読み上げる。。

という具合に会話が進む。

外国語の電話通訳サービスと似ている。私のほうから聴覚障害のある患者さん(あるいは友達でもだれでも)と連絡を取りたいときも、711に電話をかけたらこのサービスが利用できるらしい。

日本でもこのようなサービスはあるのかな。私が知らないだけかも、と思って調べたら、やはりあるようだ。
http://barrierfree.nict.go.jp/service/case3/index.html#sec-a

パートナーに性感染症検査・治療を促す匿名メール

性感染症と診断された場合、パートナーにも治療が必要となることが多い。患者さんからパートナーに連絡をとってもらう必要があるのだが、すでに別れている場合や、同時に複数の人と関係を持っていた場合などは、連絡をすることすら難しいことがよくある。伝えることが関係性に悪影響を及ぼすことを恐れて、直接パートナーに伝えることを躊躇する患者さんもある。

そんなときに役立つかもしれないのがこのサイト
http://www.inspot.org/TellThem/tabid/58/language/en-US/Default.aspx/

パートナーや元パートナーに匿名のメールで性感染症検査を促すわけだ。いつくかフォーマットがある。文章のノリは割とふつーのものもあり、飛んでいるものもあり。。それに足してオリジナルメッセージを加えることもできる。自分の名前やメールアドレスを書き込むこともできる。

この方法は相手のメールアドレスが分かっている場合にしか使えないけど、ツールとして患者さんに紹介するには悪くない。

なお、クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒など特定の性感染症に関しては、患者さんがパートナーに直接伝える代わりに、州のDepartment of Health のほうから連絡を入れる方法もある(患者さんの名は伏せて)。ただ、ぜひそうしてください、という人はあまりいない。

上記のウェブサイトは以下の記事の中で紹介されていた
Expedited Partner Therapy for Chlamydia: A Q&A Session
By Susan Wysocki, WHNP-BC, FAANP, Jo Ann Woodward, MHI, WHNP-BC
http://www.womenshealthcarejournal.com/pastissue/spring-2010/

2010年8月3日火曜日

妊娠OKの状態でいることの価値

アフリカ某国出身の患者さん。子宮内膜症で腹腔鏡下の手術をされた経験あり。デポ・プロベラや経口避妊薬を使っていた経験もあるとのことだが、ここ数年はホルモン系の避妊薬は使っていなかったようす。

彼女がさかんに強調していたのは、「自分の文化では、体が妊娠できる状態であることがすごく大事なんです。」ということ。つまり、子宮内膜症の治療の一環として「避妊薬」を使うことはどうも心地が悪いと言うのだ。

今すぐ妊娠を希望しているというなら避妊薬を使うのは得策ではないけれど、そうでないならホルモン系の避妊薬を使うことは子宮内膜症の症状の抑制に大きな助けとなる。そうやって子宮内膜症を悪化させないことが、ひいては妊孕力(にんようりょく:妊娠できる可能性)を維持することにもつながる。

こういうトータルでのメリットを踏まえて、子宮内膜症の「治療薬」としてピル etc を使ってみようという気になってもらえればいいのだが、やはり「避妊薬」のイメージが強すぎるようで、なかなかもどかしい。。。

2010年8月1日日曜日

運動の効果

とまとまんが最近スポーツクラブの会員になった。
私も近所の2か所のスポーツクラブの「お試し券」が使い終わったこともあり、ついに会員登録をした。

散歩レベルの運動ではなくて、全身の筋肉と心臓にしっかりと負荷をかける運動を始めると、洗濯物はどっと増えるわ、あっちこっちの筋肉痛で苦しむわ。だけど体とともに気持ちの健康をも得るには、そこそこの負荷をしっかりかけたほうがいいらしい、と自分ととまとまんの観察から思う。